- 2025/01/12 [PR]
- 2010/02/20 僕らの日常。
- 2010/02/13 僕らの日常。 番外編
- 2010/02/10 僕らの日常。 番外編その1
- 2010/02/10 僕らの日常。
- 2010/02/07 そして始まる。
僕らの日常。
2010/02/20 13:52:33
【僕らの日常。 快編】
馬鹿な子
阿呆な子
間抜けな子
変な子
幼い頃はそう呼ばれ、親達によく笑われていたものだ。
もちろん中傷ではなく、からかっていただけなのだが、ムキになって反発したことを思い出した。
だから、おれは「馬鹿な子」と呼ばれていたんだなぁ、とぼんやり思う。
「快?」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれて振り返る。
いきなり現実に引っ張り込まれたもんで、一瞬それが誰なのかわからなくなる。
「…恭ちゃん」
「え?うん、そうだけど…どうしたの?」
最近つるむようになったそのチビッ子は、ころころとよく表情が変わる面白いヤツだ。
くしゃり、と髪を乱し、おれは笑う。
「何してんだ?こんなとこで」
「僕は買い物だよ。快こそ、どうしたのさ」
「散歩」
一瞬だけ首を傾げるが、恭ちゃんは「ふぅん」とすぐさま納得。
扱いやすいと言うか、なんというか…
「あ、」
突然声を上げ、恭ちゃんはおれにもっていた荷物を預けて走り出す。
何事かと見ると、うずくまるガキの姿がそこにあった。
「なんだ、知り合いか」
「ううん」
迷子らしいそのガキを慰めつつ、恭ちゃんはポケットから飴玉を取り出す。
ガキは女の子で、恭ちゃんが差し出した飴を見てほんの少しだけ笑顔を見せた。
「快、この辺詳しい?」
「まぁまぁだな」
「このお兄ちゃんが案内してくれるから、おうちの近くにあるもの、教えてくれる?」
おれを見て、おびえるのがわかる。
身長はでけーし、お世辞にも優しい顔、とは言えないおれだ。
おれには無理だ、と言おうとしたにも関わらず、恭ちゃんは言い放った。
「このお兄ちゃん、優しいから大丈夫だよ」
その一言は、この場を乗り切るための「ウソ」ではなかった。
恭ちゃんは本心でそう言っているのがわかった。
だからこそ、こんなに嬉しい。
「ゆうちゃん!」
「ママ!」
母親らしき人物が現れ、ガキは泣きながら走り出す。
恭ちゃんに礼を言っていた母親がなにやら恭ちゃんに言われ、おれを見て笑顔を浮かべて頭を下げた。
親子が手を繋いで去るのを、おれ達はじっと眺める。
恭ちゃんは自分のことのように嬉しそうで、おれは恭ちゃんの一言が嬉しくて。
「さっき、母親に何言ったんだ」
「え?快も助けてくれたんだって言っただけだよ」
「…そうか」
不思議そうな表情を浮かべる恭ちゃんの髪を乱し、おれは歩き出す。
荷物を受け取ろうとした恭ちゃんの手を拒絶し、告げた。
「おれは優しい人、なんだろ?最後までそうさせろ」
阿呆な子
間抜けな子
変な子
馬鹿だけど優しい子
優しいけど、可哀想な子…だな、恭ちゃんは。
【僕らの日常。 くれは編】
面白い子を見つけた、と、これから起こる日々を想像して笑顔になった。
ずっと四人だけの世界で生きてきたアタシたちには、とても良い刺激になる、と。
だけど、知れば知るほどあの子が心配になる。
それでも今は、笑っていたいから。
「恭ちゃんっ」
その姿を偶然見つけ、名前を呼ぶ。
びくり、と肩を震わせ、恭ちゃんは恐る恐る振り返った。
「くれは」
「ちょっとちょっと!何よその態度!」
「すいません」
すぐさま謝る恭ちゃんが可愛くて、思わず吹き出す。
その手にはスーパーの袋があって、首をかしげた。
「お買い物?」
「そう。僕、おばあちゃんと暮らしているんだけど、毎週日曜日は僕がご飯を作る日だから」
「素敵!恭ちゃん、お料理上手だもんね」
毎日お弁当を持参する恭ちゃんの料理の腕前は確かなもの。
つまみ食いをしているので、充分わかっている。
「今度ウチに遊びに来なって、おばあちゃん言ってた。おばあちゃんが作る大学芋、最高だよ」
「本当?ぜひお邪魔したいから、みんなに言っとくわね」
「そうして」
嬉しそうに話すところを見ると、どうやら家に友人を招く、なんてことは久しぶりなのかもしれないと思った。
アタシ達がお互いの家に行くことは遊びに行く、という感覚とは違っているから、新鮮な感じだ。
「僕さ、」
突然声のトーンが変わり、なんとなく怖くなる。
なんだろう、と顔を向けると、そこには笑顔の恭ちゃんがいた。
「おばあちゃんに言ったんだ。楽しい人達と友達になったよって」
「楽しい人達…」
「大変だけど、退屈しないから楽しいんだ。それって、間違ってないよね?」
「…そうね。うん、合ってる」
素直に感情を出すから、恭ちゃんと一緒にいたいと思えたのかもしれない。
彼の存在が、アタシ達にとってもいいことだと思えるから。
そして、彼自身も…
「楽しみね」
「うん!」
だけど、今はやっぱり笑っていたいから。
僕らの日常。 番外編
2010/02/13 20:38:12
【僕らの日常。 じゅんじゅん編】
「おーい、じゅんじゅーん」
呼ばれたくも無いあだ名を大声で呼び、ぶんぶんと手を振りながら駆け寄るチビ。
くれはが気に入って引きずり込んだヤツなのだが、コイツが一緒にいるようになってからと言うもの、おれの日常が大きく変わった。
「恭ちゃんよぉ、じゅんじゅんって呼ぶんじゃねーって言ってんだろ?」
「だったら恭ちゃんって呼ぶのやめてよ」
「…」
恭ちゃん、と呼ぶのに慣れてしまった今、「本名なんだった?」なんて聞けるはずも無い。
これ以上何を言うわけでもなく、おれは顔をそらした。
「冗談だよ。なんとなく呼びやすくて呼んじゃってたんだけど、これからは、じゅんって呼ぶから」
に、と笑顔を見せ、そう口にする。
いつだってこいつは笑顔を見せる。
こんなに素直に笑えるのは、少しうらやましいと思う。
「いい。おまえなら、許す」
「へ?」
笑うことの大切さを、教えてくれるから。
本当は恥ずかしいそのあだ名も、おまえみたいなヤツが呼ぶならいいかと思うんだ。
「あ、おい、じゅん、じゅん!」
背後から声がして、振り返る。
快の姿を見て、おれは思わず眉をひそめる。
「おはよ、快」
「おー、恭ちゃん。うっす」
「…なんでおまえと青山はいちいち二回繰り返して名前を呼ぶんだ」
楽しそうに挨拶を交わしていた快と恭ちゃんが固まる。
何も言わずに背を向ける理由をハッキリ教えてくれ。
「だって、じゅんじゅんって呼ぶなって言うから。じゅん、じゅーんだったら良いかなって」
「同じだッ!!!」
青山のその一言で、朝の「まぁいいか」なんて思いが吹き飛んだのは…言うまでもない。
僕らの日常。 番外編その1
2010/02/10 11:02:31
【僕らの日常。 青山編】
「おはよ、青山」
「…オハ、ヨウ?」
「え?なんで疑問系?」
最近僕の世界に、一人の住人が加わった。
彼はとてもいい音を奏でる。
歩いていても、笑っていても、心の底から感情を出しているから。
「恭ちゃん、風強いから、今日は学食にしようってじゅんが言ってた」
「そうなの?僕、学食初めてだ」
そんな些細なことでも嬉しそうに笑う彼の横顔を眺め、僕はずいぶん昔の記憶を蘇らせた。
僕がまだ、みんなに「ようちゃん」と呼ばれていた頃…
「青山?どうかしたの」
声をかけられ、はっとする。
顔を覗き込む彼は、心底心配している、という表情で僕を見つめた。
「なんでもないよ。早く行こう。遅刻しちゃうから」
「あっ!ホントだ」
チャイムのメロディは好きじゃない。
あの音一つで嬉しかったり、哀しかったり、感情の起伏が激しくなるから。
「昼、楽しみだね、青山」
にっこりと笑い、彼は言う。
「…そうだね」
笑顔になることはまだ難しくても、彼と一緒にいるときは、素直に感情を出せるようになったのかもしれない。
だってホラ、こんなに楽しいから。
僕らの日常。
2010/02/10 10:57:45
衝撃のチーム結成から早四日。
くれはが合成写真やら映像やら作りやがり、何故か女子達の間でファンクラブが生み出された。
あぁ、神様…
平凡な日々を送る、と言うのはそんなに難しく、わがままな願いでしたか?
「恭ちゃん」
無感情の声で突然呼び止められ、振り返る。
そこにはいつも以上に無表情の青山の姿があった。
「どうかした?」
「疲れた」
僕と同じクラスなのは快とじゅんじゅん。
くれは・青山もそれぞれ別のクラスなのだが、どこにいたって扱いと言うか、向けられる視線は同じらしい。
「グリーンって呼ばれてるんだけど」
「あぁ…僕もだよ。恭ちゃんピンクって…」
同時にため息を吐いて項垂れた直後だった。
グラウンドの方からものすごい音が響き、僕らは顔を見合わせる。
ちょうどグラウンドが見える教室の外にいたので、飛び込み、窓から外の様子を窺う。
「お、恭ちゃんに青山」
「じゅんじゅん!」
「何、今の音」
「さぁ」
ここは生物室らしく、じゅんじゅんがひらひらと手を振りながら机に教科書を置く。
その後で僕らと窓を覗き込み、深く後悔した。
「…くれは」
なにやらマントを羽織ったくれはが、グラウンドで腕を組み、仁王立ちしている。
門にはガラの悪そうな一団がおり、もしかしなくてもまさかの展開が待っていた。
「テメー、昨日はよくもやりやがったな!」
ボス的な男がそう叫び、周りの子分達が口々にそうだ、そうだとわめきだす。
くれはが何か問題を起こしたのは言うまでもないが、何をしたのかは一切謎だ。
「アイツ、なんかやったのか」
「知らないよ」
じゅんじゅんと青山がそういうのだから、僕が知るわけが無い。
再びくれはの方へ目を向けた瞬間、ばっちり視線がぶつかってしまった。
「げ」
「あ」
「う」
僕だけでなく、じゅんじゅんと青山も同じらしい。
ちらちらと視線を動かし、くれははなにやらにやりと笑う。
「昨日と違って、今日のアタシには味方がいるわっ!」
「…おい、味方って快のことだよな」
「そうだと願いたい」
「同じく」
そんな僕らの願いもむなしく、くれはは得意げに言い放った。
「さぁ、集まるのよ!なじみーず!!!」
「…集まれ、だって。どうすんの」
「後のくれはは怖いぞ」
青山とじゅんじゅんがこそこそと相談し、顔を見合わせてため息。
僕のほうを向き、目で合図。
「逃げられないって事ね」
「「正解」」
近くにいた生徒達に囃し立てられながら、僕らはとぼとぼと廊下を行く。
途中で快と合流したけど、快は快で楽しそうだ。
「堂々と喧嘩ができるなんてサイコーじゃねぇか」
そんな風に思えるのは、快だけです。
なんだかいつもより早く着いてしまったかのような感覚に苦しみつつ、目の前で殺気を放つ集団とその元凶を交互に見やる。
快に殴られるのは嫌だけど、向こうにいた方がマシに思えた。
「ねぇ、これからどうするのさ」
「決まってるでしょ。悪をブチのめすのよ!」
僕にとってはくれはも悪だ。
「んじゃ、いっくぜぇぇぇ」
バキ、と指を鳴らしつつ、快は集団へ向かって歩いていく。
青山とじゅんじゅんはそれをため息を吐きながら見送り、くれはにいたっては遠く離れた安全地帯で手を振っている。
「がんばってぇ」
「…っておい!オメーは戦わねーのかい!!!」
「当然!アタシはみんなのアイドルよ?」
迷惑極まりない存在など、アイドルどころか悪魔だ。
にっこりと笑うくれはは、まさに悪魔。
ちょっと目を離している隙に、すでに快の足元には死屍累々が広がっている。
満足そうな表情を浮かべ、快は言い放つ。
「もっと強くなってから出直すんだな!」
か、カッコイー!!!
「はい、カットォ!ご苦労様。いい映像が撮れたわー」
「…え?」
僕の声には一切反応せず、くれははいつの間にやら手にしていたカメラを持ってさっさとその場から立ち去る。
快達三人もどうやら諦めたらしく、特に何を言うでもなく転がる集団に背を向けた。
残されるのは嫌だ。
一緒にされるのはもっと嫌だ。
そう思いつつも、僕の足は四人とともに学校内へと進むのだった…
後日。
見覚えのある合成戦隊モノ映像が昼休みに上映され、ストラップなどのグッズが購買で売られているのを見た。
僕、もう学校辞めたいです。
そして始まる。
2010/02/07 21:37:59
本日の【僕らの日常。】はのろり、のろりと物語が動きます。
くれはの一言がキッカケで恭ちゃんは泣き、青山は項垂れ、じゅんじゅんは傷つき、快は呆れます。
ノリノリなのはいつだってくれはだけ。
さて、何が起きたのでしょうか!?
…番組紹介的な感じで(笑)
僕は今、とんでもない問題にぶち当たっています。
ごく普通の高校生活を送っていれば絶対に起こり得ないだろうという問題に。
「何か作ろうよ」
「…は?」
僕を含め、四人が一斉に首を動かし、声を放つ。
視線を一身に浴びているのは、彼らの中でぶっちぎりの変人であるくれはだ。
天気が良い、という理由で昼食は屋上でとることが決まり、何故か僕まで引っ張られ、こうして屋上に座っているわけだけれど、どうやら穏やかに食事はできないらしい。
「なんなの?いきなり」
「よく聞いてくれたわね、青山!」
「いや、聞かねーとわかんねーから」
快のツッコミを無視し、くれはは腕を組み、得意げな表情を浮かべて言った。
「この世の中、問題を抱えても相談できる人もいなくて一人悩む人がいるでしょう?だから、そんな人たちをアタシたちが救ってやろうじゃないの!」
「面倒」
じゅんじゅんの一言にバッサリと斬られるが、それくらいで負けるくれはじゃない。
ヤツのHPはまだまだ余裕だ。
「じゅんじゅん…もっと優しさと言うか、思いやりを持つべきよ?」
「煩い。他人に気を遣って生きてくなんて絶対に嫌だね」
「うわ…そんな事言ってるとじゅんじゅんが見捨てられちゃうわよ?冷たいヤツ!!って」
「そ、そんなことねーよな?快」
静かに顔をそらす快を見て、じゅんじゅんは15のダメージを受けた。
続いて視線を向けた青山にも顔を背けられ、さらに25のダメージ。
僕の方にも視線を向けたらしいけど、すでに僕はくれはの手の内。
文字通り、くれはに抱きしめられているので、じゅんじゅんに答えることは不可能だ。
じゅんじゅん、さらにさらに30のダメージ!!
残りはあと30だっ!
「ぐ…だ、だけど!ノリノリなのはくれはだけだろ!?」
「みんなやるわよーっ」
「「「おー…」」」
僕と快、青山のやる気ゼロの返事が響き渡る。
青い空の下、僕らの気分はどこまでも曇天と化す。
そんな光景を目の当たりにし、ついにじゅんじゅんは30のダメージを食らってHPはゼロ。
がっくりとひざをついてうなだれるじゅんじゅんを見て、くれははにやりと笑う。
…あ、嫌な予感。
「じゅんじゅん、アンタもすっごい特技持ってるんだから活用しなさい!動物と話せるなんて貴重な能力、世のため人のためにしか使えないわよ!?」
「え?じゅんじゅん、そんなすごい技持ってるの?」
「他人に言うんじゃねーよ!」
「恭ちゃんは他人じゃないわ!もうメンバーよ!」
「なんの!?」
僕の叫びに、くれははようやく解放して僕らの前に立つ。
腰に手を当て、ポケットから小さなメモを取り出して叫ぶように言い放った。
「エヌ・エー・ゼット・アイ・エム・小文字のイーにちょんと小文字のエス!!」
「…ちょん?」
「その名も!NAZIMe's(なじみーず)よ!!」
なじめーず、じゃないの?
学校で浮いてます、的な…いや!僕は違う、断じて違う!!!
「問題何でも解決してやるぜ☆的な感じで行くからねっ」
「いきなりなんだよってなるじゃねーか。第一誰も知らねーだろ?そんなわけわかんねー組織」
「ふっふっふ…甘いわね、快!」
あ、嫌な予感二回目。
「これを見よ、とくと見よ!!」
じゃん、とくれはが堂々と差し出したのは、明らかに合成された僕らのポスター。
戦隊モノみたいなスーツをまとったどっかのどなたかの顔には僕ら。
ヘルメットくらいかぶってもいいのに…あ、そしたらわからないか。
いや、わかんなくていい!!
「何で僕がピンクなの!? くれはでいいじゃん!!!」
「そこか!?怒るポイント違うだろ!」
「アタシはみんなのアイドルのくれたんなの」
レッドと化した快のツッコミを聞き流し、わけのわからないことを言ったくれはの指の先を見つめる。
そこにはうさぎのような、猫のような、とにかくモコモコフワフワしていて羽の生えたイキモノが写っており、顔は満面の笑みを浮かべたくれは。
イキモノではなく、バケモノ…いやいや、そんな事を口にすればどんな目に遭うか…
「なんで青山がグリーンで、おれがブルーなんだ?青山がブルーでいいじゃん。名前がそうなんだから」
「馬鹿ね。ブルーはモテるのよ?アンタ一番女の子に人気あるんだから当然じゃない」
「当然って…」
またもや落ち込むじゅんじゅんだが、当然だ。
女の子に好かれていることを重荷に思っているのだから、今以上に目立つことをすればさらなる人気がじゅんじゅんを待っている…!
「みんなっ!頑張るわよ!」
今度は声も出ず、僕らはただうなだれるだけ。
くれはのこのときだけのノリで終わればいいと誰もが思っていたのに、次の日学校中に見覚えのあるポスターが貼られまくっているのを見てため息を吐いたのは、絶対に僕だけじゃない。
楽しいのはくれはだけです。