僕らの日常。
2010/02/20 13:52:33
こんにちは。
本日も番外編となっております。
本日は快編+くれは編
くれは編ではちょっぴり物語の確信にせまる…かも?(笑)
【僕らの日常。 快編】
馬鹿な子
阿呆な子
間抜けな子
変な子
幼い頃はそう呼ばれ、親達によく笑われていたものだ。
もちろん中傷ではなく、からかっていただけなのだが、ムキになって反発したことを思い出した。
だから、おれは「馬鹿な子」と呼ばれていたんだなぁ、とぼんやり思う。
「快?」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれて振り返る。
いきなり現実に引っ張り込まれたもんで、一瞬それが誰なのかわからなくなる。
「…恭ちゃん」
「え?うん、そうだけど…どうしたの?」
最近つるむようになったそのチビッ子は、ころころとよく表情が変わる面白いヤツだ。
くしゃり、と髪を乱し、おれは笑う。
「何してんだ?こんなとこで」
「僕は買い物だよ。快こそ、どうしたのさ」
「散歩」
一瞬だけ首を傾げるが、恭ちゃんは「ふぅん」とすぐさま納得。
扱いやすいと言うか、なんというか…
「あ、」
突然声を上げ、恭ちゃんはおれにもっていた荷物を預けて走り出す。
何事かと見ると、うずくまるガキの姿がそこにあった。
「なんだ、知り合いか」
「ううん」
迷子らしいそのガキを慰めつつ、恭ちゃんはポケットから飴玉を取り出す。
ガキは女の子で、恭ちゃんが差し出した飴を見てほんの少しだけ笑顔を見せた。
「快、この辺詳しい?」
「まぁまぁだな」
「このお兄ちゃんが案内してくれるから、おうちの近くにあるもの、教えてくれる?」
おれを見て、おびえるのがわかる。
身長はでけーし、お世辞にも優しい顔、とは言えないおれだ。
おれには無理だ、と言おうとしたにも関わらず、恭ちゃんは言い放った。
「このお兄ちゃん、優しいから大丈夫だよ」
その一言は、この場を乗り切るための「ウソ」ではなかった。
恭ちゃんは本心でそう言っているのがわかった。
だからこそ、こんなに嬉しい。
「ゆうちゃん!」
「ママ!」
母親らしき人物が現れ、ガキは泣きながら走り出す。
恭ちゃんに礼を言っていた母親がなにやら恭ちゃんに言われ、おれを見て笑顔を浮かべて頭を下げた。
親子が手を繋いで去るのを、おれ達はじっと眺める。
恭ちゃんは自分のことのように嬉しそうで、おれは恭ちゃんの一言が嬉しくて。
「さっき、母親に何言ったんだ」
「え?快も助けてくれたんだって言っただけだよ」
「…そうか」
不思議そうな表情を浮かべる恭ちゃんの髪を乱し、おれは歩き出す。
荷物を受け取ろうとした恭ちゃんの手を拒絶し、告げた。
「おれは優しい人、なんだろ?最後までそうさせろ」
阿呆な子
間抜けな子
変な子
馬鹿だけど優しい子
優しいけど、可哀想な子…だな、恭ちゃんは。
【僕らの日常。 くれは編】
面白い子を見つけた、と、これから起こる日々を想像して笑顔になった。
ずっと四人だけの世界で生きてきたアタシたちには、とても良い刺激になる、と。
だけど、知れば知るほどあの子が心配になる。
それでも今は、笑っていたいから。
「恭ちゃんっ」
その姿を偶然見つけ、名前を呼ぶ。
びくり、と肩を震わせ、恭ちゃんは恐る恐る振り返った。
「くれは」
「ちょっとちょっと!何よその態度!」
「すいません」
すぐさま謝る恭ちゃんが可愛くて、思わず吹き出す。
その手にはスーパーの袋があって、首をかしげた。
「お買い物?」
「そう。僕、おばあちゃんと暮らしているんだけど、毎週日曜日は僕がご飯を作る日だから」
「素敵!恭ちゃん、お料理上手だもんね」
毎日お弁当を持参する恭ちゃんの料理の腕前は確かなもの。
つまみ食いをしているので、充分わかっている。
「今度ウチに遊びに来なって、おばあちゃん言ってた。おばあちゃんが作る大学芋、最高だよ」
「本当?ぜひお邪魔したいから、みんなに言っとくわね」
「そうして」
嬉しそうに話すところを見ると、どうやら家に友人を招く、なんてことは久しぶりなのかもしれないと思った。
アタシ達がお互いの家に行くことは遊びに行く、という感覚とは違っているから、新鮮な感じだ。
「僕さ、」
突然声のトーンが変わり、なんとなく怖くなる。
なんだろう、と顔を向けると、そこには笑顔の恭ちゃんがいた。
「おばあちゃんに言ったんだ。楽しい人達と友達になったよって」
「楽しい人達…」
「大変だけど、退屈しないから楽しいんだ。それって、間違ってないよね?」
「…そうね。うん、合ってる」
素直に感情を出すから、恭ちゃんと一緒にいたいと思えたのかもしれない。
彼の存在が、アタシ達にとってもいいことだと思えるから。
そして、彼自身も…
「楽しみね」
「うん!」
だけど、今はやっぱり笑っていたいから。